2話:魔獣との初遭遇

第2話

「うわあああああああっ!!」

森の奥から響いた悲鳴は、
ただの驚きじゃない。
“本気の命の危機”の叫びだ。

逃げる?
いやいや、俺は戦えない。
ステータスも「戦闘力:−」。
ほぼゴミ。

でも──
助けを求める声は、放っておけない。

これは職業病というか、性分というか。
50年も人の相談に乗ってきた人間の悲しい宿命だ。

「……しゃあない。行くか」

俺は草木をかき分け、声の方向へ急いだ。


■ 森の奥、崖の手前

悲鳴の主は──
小さな少女だった。

年齢は10歳前後。
ボロボロのマント。
泣き腫らした目。
右足を押さえて震えている。

そして彼女の前には──
先ほどとは別の、痩せこけた熊型魔獣。

「あー……よりによって熊かよ……」

少女は俺を見るなり叫んだ。

「に、逃げて!!だめっ、来ちゃだめ!!」

いや、その気持ちは分かる。
分かるんだけども。

逃げるにも方向が悪い。背後は崖だ。

逃げたら落ちる。
残っても熊に襲われる。

“二択どっちも死亡”の最悪パターンだ。


■ 発動──《トライ・アナライズ》

深呼吸して、スキルを起動する。

《特殊スキル:トライ・アナライズ》

視界が立体化し、情報が次々と浮かぶ。

  • 熊の状態:極度の栄養不足 → 体力低下(攻撃力↓)
  • 足の怪我 → 一時的なもの(捻挫)
  • 少女の位置:崖まで2m → 一歩で落下の危険
  • 地面の状態:湿って滑りやすい
  • 近くの木:幹に爪跡 → テリトリー警告が目的?
  • 熊の行動パターン:威嚇7割・捕食3割

「お前……本気で食う気はないな。縄張り荒らされたのがムカついてるだけか」

戦わずに済む可能性は十分ある。


■ だが問題は少女の状態

「恐怖でパニック → 踵が崖方向 → 一歩で転落」

おいおい、クソ危ないじゃねぇか。

俺は少女に近づきながら声をかける。

「大丈夫、大丈夫。ほら、こっち向いて。
深呼吸して……ゆっくり、俺の声を聞いて」

これはもう、完全に“生業スキル”の出番だ。
俺は何千人もパニック・不安・混乱の人を相手にしてきた。

少女の震えがほんの少しだけ収まる。


■ 熊の威嚇が強まる

グルルルルル……ッ!!

牙をむき、低く鳴く熊。
一歩踏み込めば少女に届く距離だ。

少女「こ、怖い……死んじゃう……!」

俺「大丈夫。死なないよ。
さっきの魔獣も腹減ってただけだったし」

少女「ええっ!?そ、それで助かったの!?」

俺「そう。だから熊も──腹だ」

熊の鼻先がひくついた。

この近くにも果実がある木が一本。
トライ・アナライズで位置は把握している。


■ 賭けに出る

俺は地面の果実を拾って、熊の横にそっと投げた。

少女「だ、だめ!!刺激しちゃ……!」

俺「大丈夫、刺激はしない。
“選択肢を増やしてる”だけだ」

熊は視線を果実に移す。
ゆっくり、ゆっくり──
そちらに歩き、果実を口にした。

そして森の奥へ去っていった。


■ 救助成功

少女は崩れ落ち、涙をこぼした。

「おじさん……すごい……なんで戦わずに助かったの?」

俺は笑って答えた。

「戦えないからだよ。
戦えないやつは、勝つ方法を考えるしかないからな」

少女はぐすっと鼻をすすりつつ、言った。

「……ありがとう。わたし、ミア。
村から追われて……一人で、どうしていいかわからなくて……」

「追われた?なんで?」

彼女は口をつぐんだ。

そして、トライ・アナライズが微弱に光る。

“嘘はついていない。ただ、言えない理由がある”

……事情が深いな、これは。

「よし、ミア。とりあえず安全な場所探そう。
足の手当ても必要だ」

少女は小さく頷いた。

こうして──
戦えない異世界転生おっさんと、
村から追われた少女の旅が始まった。

賢者の旅路は、まだ始まったばかりだ。


第3話:「ミアの秘密と追放」

第1話:「戦えない転生者、魔獣と遭遇す。」

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