町外れの丘から、暴走する魔獣の群れが見えた。
狼型、鹿型、猪型……
普段なら襲ってこない草食型の魔獣さえも混じり、
群れは完全に“パニックの奔流”となって走っている。
町まで、あと数分。
ミアは胸を押さえて震えていた。
「おじさん……苦しい……
魔獣たちが……泣いてる……
逃げたいのに逃げられなくて……
痛いって……」
俺はミアの肩に手を置いた。
「大丈夫だ。ミアは一人じゃない。
俺がいる」
ミアの目が潤んだまま、ゆっくり俺を見る。
「わたし……なにをすればいいの……?」
■ トライ・アナライザの解析
《トライ・アナライズ発動》
〈暴走の要因:外的刺激(聖印魔法)〉
〈魔獣たちの心理:恐怖・苦痛・混乱〉
〈必要な行動:魔力共鳴による“感情拡散”〉
〈条件:ミアの魔力 → 安定化 → 群れに伝播〉
〈補助役:必要(ミア一人では制御不可)〉
〈適任:俺〉
(……俺がミアの“精神の軸”になる?
なるほど、これは……対人援助の延長だな)
俺はミアに向き直る。
「ミア。お前の力は“心を読む”だけじゃない。
“心を届ける”力でもある。」
ミア「……心を、届ける……?」
「うん。
今の魔獣たちに必要なのは“戦い”じゃなくて、
“安心”だ。」
ミアの瞳が揺らぎ、涙がこぼれる。
「助け……られる?
わたしでも……?」
「助けられる。
ミアにしかできない。」
ミアはぎゅっと拳を握った。
「やる……!やるよ、おじさん……!」
■ 魔獣の暴走、至近距離へ
地響きのように地面が震える。
群れが迫ってくる。
ギルドの討伐隊が剣を構え、魔法を詠唱しようとする。
「まずい!!」
「間に合わん!!」
「ここで迎撃するしか!!」
ギルドマスターが叫んだ。
「ミアを連れて逃げろ、分析士!!
今の魔獣の数は討伐隊でも抑えられん……!」
(……やっぱり戦闘では止められない)
俺は叫ぶ。
「皆、武器を下ろせ!!
ミアの“魔力共鳴”を邪魔するな!!」
ギルド「はあ!?!?!?」
ギルドマスター「何を言って……!」
(時間がない!!)
俺はミアの両肩に手を置いた。
■ ミアの覚醒
「ミア……
怖いか?」
「こ、怖い……でも……
魔獣たちのほうが、もっと怖い……!!」
ミアは涙を流しながら、魔獣の群れに向き合った。
その瞬間、
ミアの体から柔らかい光が“ふわり”と広がった。
《魔力共鳴:起動》
〈属性:慈愛・安定〉
〈効果範囲:半径200m〉
〈対象:感情生命体〉
〈伝播:恐怖の緩和 → 安定化〉
ミアの心が世界に広がる。
“怖くないよ”
“もう大丈夫”
“痛くないよ”
まるで子守歌のように。
■ 魔獣たちの変化
暴走していた魔獣の群れが──
一斉に動きを鈍らせた。
狂ったように走っていた狼が、
悲鳴を上げていた鹿が、
恐怖で暴れていた猪が……
次々と、動きを止め、
その場で座り込み、震えながら涙を流す。
彼らは、
戦いたかったわけじゃない。
ただ、
痛みから逃げようとしていただけ。
ミアは泣きながら魔獣たちに声を投げかける。
「だいじょうぶ……だいじょうぶだよ……
もう痛い思いは……しなくていいよ……」
ミアの魔力が優しく波打つ。
魔獣たちの瞳から、
じわ……っと涙が落ちる。
完全に“恐怖の奔流”が止まった。
■ ギルド、騎士団、町、全員が固まる
冒険者たちは武器を持ったまま凍りつく。
「……なにが……起きてる……?」
「魔獣が……泣いてる……?」
「こんな……あり得ない……!」
ギルドマスターは唖然と呟いた。
「戦闘も魔法も使わずに……魔獣の暴走を止めた……?
そんな馬鹿なことが……」
受付嬢はミアを見て目を潤ませる。
「この子……
人でも魔族でもない……
“優しさ”そのものじゃない……」
■ トライ・アナライズが告げる“結果”
〈魔獣被害:ゼロ〉
〈町の被害:ゼロ〉
〈討伐必要:なし〉
〈教会騎士団:魔力反応を探知 → 接近〉
〈ミアの存在:世界の均衡を変える鍵〉
(……やっぱりそうか。
ミアは、この世界の“歪みを正す力”を持っている)
俺はミアの頭にそっと手を置いた。
「よく頑張ったな、ミア。
お前は……すげぇよ。」
ミアは涙を流しながら笑った。
「……わたし……
誰かの……役に立てた?」
「ああ。
ミアにしかできない、“救い方”だ。」
ミアの笑顔は、
魔獣の涙と同じくらい優しかった。


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