8話:ミア、初めての覚醒

第8話

町外れの丘から、暴走する魔獣の群れが見えた。

狼型、鹿型、猪型……
普段なら襲ってこない草食型の魔獣さえも混じり、
群れは完全に“パニックの奔流”となって走っている。

町まで、あと数分。

ミアは胸を押さえて震えていた。

「おじさん……苦しい……
魔獣たちが……泣いてる……
逃げたいのに逃げられなくて……
痛いって……」

俺はミアの肩に手を置いた。

「大丈夫だ。ミアは一人じゃない。
俺がいる」

ミアの目が潤んだまま、ゆっくり俺を見る。

「わたし……なにをすればいいの……?」


■ トライ・アナライザの解析

《トライ・アナライズ発動》

〈暴走の要因:外的刺激(聖印魔法)〉
〈魔獣たちの心理:恐怖・苦痛・混乱〉
〈必要な行動:魔力共鳴による“感情拡散”〉
〈条件:ミアの魔力 → 安定化 → 群れに伝播〉
〈補助役:必要(ミア一人では制御不可)〉
〈適任:俺〉

(……俺がミアの“精神の軸”になる?
なるほど、これは……対人援助の延長だな)

俺はミアに向き直る。

「ミア。お前の力は“心を読む”だけじゃない。
“心を届ける”力でもある。」

ミア「……心を、届ける……?」

「うん。
今の魔獣たちに必要なのは“戦い”じゃなくて、
“安心”だ。」

ミアの瞳が揺らぎ、涙がこぼれる。

「助け……られる?
わたしでも……?」

「助けられる。
ミアにしかできない。」

ミアはぎゅっと拳を握った。

「やる……!やるよ、おじさん……!」


■ 魔獣の暴走、至近距離へ

地響きのように地面が震える。
群れが迫ってくる。

ギルドの討伐隊が剣を構え、魔法を詠唱しようとする。

「まずい!!」
「間に合わん!!」
「ここで迎撃するしか!!」

ギルドマスターが叫んだ。

「ミアを連れて逃げろ、分析士!!
今の魔獣の数は討伐隊でも抑えられん……!」

(……やっぱり戦闘では止められない)

俺は叫ぶ。

「皆、武器を下ろせ!!
ミアの“魔力共鳴”を邪魔するな!!」

ギルド「はあ!?!?!?」

ギルドマスター「何を言って……!」

(時間がない!!)

俺はミアの両肩に手を置いた。


■ ミアの覚醒

「ミア……
怖いか?」

「こ、怖い……でも……
魔獣たちのほうが、もっと怖い……!!」

ミアは涙を流しながら、魔獣の群れに向き合った。

その瞬間、
ミアの体から柔らかい光が“ふわり”と広がった。

《魔力共鳴:起動》

〈属性:慈愛・安定〉
〈効果範囲:半径200m〉
〈対象:感情生命体〉
〈伝播:恐怖の緩和 → 安定化〉

ミアの心が世界に広がる。

“怖くないよ”
“もう大丈夫”
“痛くないよ”

まるで子守歌のように。


■ 魔獣たちの変化

暴走していた魔獣の群れが──
一斉に動きを鈍らせた。

狂ったように走っていた狼が、
悲鳴を上げていた鹿が、
恐怖で暴れていた猪が……

次々と、動きを止め、
その場で座り込み、震えながら涙を流す。

彼らは、
戦いたかったわけじゃない。

ただ、
痛みから逃げようとしていただけ。

ミアは泣きながら魔獣たちに声を投げかける。

「だいじょうぶ……だいじょうぶだよ……
もう痛い思いは……しなくていいよ……」

ミアの魔力が優しく波打つ。

魔獣たちの瞳から、
じわ……っと涙が落ちる。

完全に“恐怖の奔流”が止まった。


■ ギルド、騎士団、町、全員が固まる

冒険者たちは武器を持ったまま凍りつく。

「……なにが……起きてる……?」
「魔獣が……泣いてる……?」
「こんな……あり得ない……!」

ギルドマスターは唖然と呟いた。

「戦闘も魔法も使わずに……魔獣の暴走を止めた……?
そんな馬鹿なことが……」

受付嬢はミアを見て目を潤ませる。

「この子……
人でも魔族でもない……
“優しさ”そのものじゃない……」


■ トライ・アナライズが告げる“結果”

〈魔獣被害:ゼロ〉
〈町の被害:ゼロ〉
〈討伐必要:なし〉
〈教会騎士団:魔力反応を探知 → 接近〉
〈ミアの存在:世界の均衡を変える鍵〉

(……やっぱりそうか。
ミアは、この世界の“歪みを正す力”を持っている)

俺はミアの頭にそっと手を置いた。

「よく頑張ったな、ミア。
お前は……すげぇよ。」

ミアは涙を流しながら笑った。

「……わたし……
誰かの……役に立てた?」

「ああ。
ミアにしかできない、“救い方”だ。」

ミアの笑顔は、
魔獣の涙と同じくらい優しかった。


第9話:「騎士団、迫る」

第7話:「魔獣暴走の前兆」

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