朝のギルドは、活気と騒がしさで満ちていた。
酒場併設型のギルドは、朝から慌ただしい。依頼を受ける冒険者、徹夜明けで戻ってきた者、武具の点検をする者……そんな喧騒の中、晴一たちは受付カウンターへ向かった。
「来たな、新人パーティ《アナライズ》。今日は初依頼を紹介するわよ」
受付嬢ルナが差し出した紙は──単なる探索依頼だった。
■ 初依頼は“お散歩”…のはずだった
「森の調査?」ガルドが紙を覗き込む。
「お散歩レベルじゃん?」
ルリエが眠そうに呟く。
確かに依頼内容だけ見れば簡単だ。
・指定エリアの調査
・小動物の数を数える
・魔物の跡があれば報告
・深部へは入らないこと
晴一も一目で“初心者向け”とわかる依頼だと思ったが──
受付嬢ルナは声を潜めた。
「……本当はね、ちょっと嫌な噂があるの」
「嫌な噂?」晴一は眉を上げる。
ルナは依頼書の下に、小さな手書きのメモをそっと押し出した。
■ “方向感覚の喪失”──全員が訴える現象
メモにはこう書かれていた。
- 森に入った冒険者が全員、方向感覚を失った
- 魔道具コンパスも動きが狂う
- 小動物が急激に減っている
- 深部で“泣き声”を聞いた者がいる
- 森全体の魔力が“削られている”
ガルドが驚いて声を上げる。
「方向感覚を失う? 魔道具ごと?そんなことあり得るか?」
「普通はあり得ない。」
ルリエは目を細めた。
「“世界の魔力場そのもの”が歪んでいる証拠よ」
ハルイチの胸の奥に、冷たい感触が走る。
──世界の魔力循環の欠損。
──“存在の空白”。
──何かが抜け落ちたような感覚。
トライ・アナライズが、自動的に情報を映し出した。
【解析結果:森の魔力密度の欠損を検知】
・領域内部に“魔力の穴”の可能性
・生物の生命反応が薄い
・地形情報の取得が困難
・空間認識に乱れ
ハルイチは息を呑んだ。
(……あの日の暴走魔獣と同じ“気配”だ)
ミアが少し震えながら袖をつまむ。
「……ハルイチ……あの森……泣いてる……」
「泣いてる?」
ガルドが目を丸くする。
ミアは胸に手を当てた。
「小さな声……“助けて”って……でも、すごく痛そうで……さわると胸が苦しくなるの……」
ハルイチはミアの肩にそっと手を置いた。
「ミアの共鳴能力が、何かを捉えてるんだな……」
受付嬢ルナは小さく頷いた。
「だから、本当は……あなたたちにしか頼めないの。
普通の冒険者じゃ、この異変は“見えない”し、“聞こえない”」
ハルイチは静かに答えた。
「わかりました。受けます」
ガルドも大きく頷く。
ルリエはぼそっと「興味深いわね」と呟いた。
ミアは不安そうだが、それでも首を縦に振った。
こうして──
《アナライズ》の初めての冒険が始まった。
■ 森の入り口──“気配が消えた世界”
森の目前に立った瞬間、晴一は息を止めた。
静かすぎる。
鳥の声がしない。
風が木々を揺らす音すらない。
生きている森なのに……生きていない。
ミアは耳を塞ぎながら泣き出しそうな声で言う。
「……痛い……この森、痛いよ……苦しい……」
ガルドがミアの背を優しく支える。
「お、おい……ホントに泣いてるのか、森が……?」
ルリエは膝をつき、地面に触れた。
「魔力の流れが……断ち切られてる。こんなこと、あり得ないわ」
ハルイチの視界にトライ・アナライズが展開する。
【解析結果:魔力場“欠損領域”を検知】
・範囲:森の内部に円形の空白
・魔力の流入が停止
・空間座標のずれ(微弱)
・何者かによる強制的な“吸収”の痕跡
──その瞬間。
ハルイチだけが、森の奥に“黒いヒビ割れ”を見た。
まるで、空間そのものが裂けたような──
亀裂のような、影のような。
ガルドもルリエもミアも、誰も気づいていない。
ハルイチは息を呑む。
(……あれは……何だ?)
トライ・アナライズが警告を表示した。
【警告:視認できるのは“あなたのみ”】
この現象は、世界の“根幹”に関わる可能性があります
ハルイチはその場で唾を飲み込んだ。
「……みんな、気をつけろ。
この森……“本当に消えようとしてる”。」
ミアが涙を拭い、勇気を振り絞って言った。
「……行こう、ハルイチ。
あの声……あの子……助けないと……」
ハルイチは微笑み、ミアの頭を軽く撫でた。
「もちろんだ。
俺たちで──この森を救おう」
そして四人は、
“消えゆく森”の中へと足を踏み入れた。
物語は、いよいよ核心へと進んでいく──。


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