12話:消えた森と魔力の穴

第12話

朝のギルドは、活気と騒がしさで満ちていた。
酒場併設型のギルドは、朝から慌ただしい。依頼を受ける冒険者、徹夜明けで戻ってきた者、武具の点検をする者……そんな喧騒の中、晴一たちは受付カウンターへ向かった。

「来たな、新人パーティ《アナライズ》。今日は初依頼を紹介するわよ」

受付嬢ルナが差し出した紙は──単なる探索依頼だった。


■ 初依頼は“お散歩”…のはずだった

「森の調査?」ガルドが紙を覗き込む。

「お散歩レベルじゃん?」
ルリエが眠そうに呟く。

確かに依頼内容だけ見れば簡単だ。

・指定エリアの調査
・小動物の数を数える
・魔物の跡があれば報告
・深部へは入らないこと

晴一も一目で“初心者向け”とわかる依頼だと思ったが──

受付嬢ルナは声を潜めた。

「……本当はね、ちょっと嫌な噂があるの」

「嫌な噂?」晴一は眉を上げる。

ルナは依頼書の下に、小さな手書きのメモをそっと押し出した。


■ “方向感覚の喪失”──全員が訴える現象

メモにはこう書かれていた。

  • 森に入った冒険者が全員、方向感覚を失った
  • 魔道具コンパスも動きが狂う
  • 小動物が急激に減っている
  • 深部で“泣き声”を聞いた者がいる
  • 森全体の魔力が“削られている”

ガルドが驚いて声を上げる。

「方向感覚を失う? 魔道具ごと?そんなことあり得るか?」

「普通はあり得ない。」
ルリエは目を細めた。
「“世界の魔力場そのもの”が歪んでいる証拠よ」

ハルイチの胸の奥に、冷たい感触が走る。

──世界の魔力循環の欠損。
──“存在の空白”。
──何かが抜け落ちたような感覚。

トライ・アナライズが、自動的に情報を映し出した。


【解析結果:森の魔力密度の欠損を検知】

・領域内部に“魔力の穴”の可能性
・生物の生命反応が薄い
・地形情報の取得が困難
・空間認識に乱れ

ハルイチは息を呑んだ。

(……あの日の暴走魔獣と同じ“気配”だ)

ミアが少し震えながら袖をつまむ。

「……ハルイチ……あの森……泣いてる……」

「泣いてる?」
ガルドが目を丸くする。

ミアは胸に手を当てた。

「小さな声……“助けて”って……でも、すごく痛そうで……さわると胸が苦しくなるの……」

ハルイチはミアの肩にそっと手を置いた。

「ミアの共鳴能力が、何かを捉えてるんだな……」

受付嬢ルナは小さく頷いた。

「だから、本当は……あなたたちにしか頼めないの。
普通の冒険者じゃ、この異変は“見えない”し、“聞こえない”」

ハルイチは静かに答えた。

「わかりました。受けます」

ガルドも大きく頷く。
ルリエはぼそっと「興味深いわね」と呟いた。
ミアは不安そうだが、それでも首を縦に振った。

こうして──
《アナライズ》の初めての冒険が始まった。


■ 森の入り口──“気配が消えた世界”

森の目前に立った瞬間、晴一は息を止めた。

静かすぎる。

鳥の声がしない。
風が木々を揺らす音すらない。
生きている森なのに……生きていない。

ミアは耳を塞ぎながら泣き出しそうな声で言う。

「……痛い……この森、痛いよ……苦しい……」

ガルドがミアの背を優しく支える。

「お、おい……ホントに泣いてるのか、森が……?」

ルリエは膝をつき、地面に触れた。

「魔力の流れが……断ち切られてる。こんなこと、あり得ないわ」

ハルイチの視界にトライ・アナライズが展開する。


【解析結果:魔力場“欠損領域”を検知】

・範囲:森の内部に円形の空白
・魔力の流入が停止
・空間座標のずれ(微弱)
・何者かによる強制的な“吸収”の痕跡

──その瞬間。

ハルイチだけが、森の奥に“黒いヒビ割れ”を見た。

まるで、空間そのものが裂けたような──
亀裂のような、影のような。

ガルドもルリエもミアも、誰も気づいていない。

ハルイチは息を呑む。

(……あれは……何だ?)

トライ・アナライズが警告を表示した。


【警告:視認できるのは“あなたのみ”】

この現象は、世界の“根幹”に関わる可能性があります


ハルイチはその場で唾を飲み込んだ。

「……みんな、気をつけろ。
この森……“本当に消えようとしてる”。」

ミアが涙を拭い、勇気を振り絞って言った。

「……行こう、ハルイチ。
あの声……あの子……助けないと……」

ハルイチは微笑み、ミアの頭を軽く撫でた。

「もちろんだ。
俺たちで──この森を救おう」

そして四人は、
“消えゆく森”の中へと足を踏み入れた。

物語は、いよいよ核心へと進んでいく──。


第13話:「森の亡霊と“導きの光”」

第11話:「ギルドによる正式保護・仲間加入」

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