森全体が揺れた瞬間、空気が凍りついた。
風はないのに木々が震え、地面が低いうなり声をあげる。
ミアが精霊の幼体を抱えるように両手をそっと包み込む。
「……急いで……このままだと、森が全部……消えちゃう……」
ハルイチは周囲を見渡す。
先ほど見えた“影”は消えていたが、空間の裂け目だけが微弱に歪んでいる。
まるで、世界が薄く引き伸ばされているような感覚だ。
■ 《森の心臓》──消失寸前の神域
森の中心へ進むほど、空気は重く、濃く……そして冷たい。
ガルドは顔をしかめながら言った。
「なんだこの感じ……寒気が止まらねぇ……」
ルリエは両手を胸の前で組み、魔力波を探る。
「……ここは、“森の心臓”に繋がってる。
精霊たちの魔力源……つまり、森が森であるための根幹よ」
ハルイチは息を飲んだ。
(つまり……ここが壊れれば、森は消えるのか……?)
その瞬間──
ミアが突然、崩れ落ちるように膝をついた。
「ミア!」
晴一が抱き起こす。
ミアは震えながら囁いた。
「……森の……光が……薄くなってる……痛い……苦しい……みんな……消えちゃう……」
ハルイチはミアの背をそっと支え、頭に手を添える。
「大丈夫だ。ミアは一人じゃない」
その瞬間、
ミアの胸元から柔らかな光がにじみ始めた。
■ “慈愛魔力”と《トライ・アナライズ》の共鳴
淡い緑色の光がミアの手から溢れ、精霊の幼体を包み込む。
ハルイチの体にも温かい何かが広がり──
視界が勝手に開き始めた。
まるで、ミアの感覚が晴一へ流れ込んだように。
《トライ・アナライズ》が暴走しかける。
【解析暴走警告】
対象:森の魔力循環機構
情報量:規定値の2900%
危険:使用者の精神負荷上昇
対策:深呼吸・遮断・外部魔力とのリンク限定化
ハルイチ「っ……!?」
ルリエが驚いた表情で駆け寄る。
「ハルイチ!! 情報の流入が多すぎる! 意識が飛ぶわよ!」
ガルドが肩を掴み、叫ぶ。
「おいハルイチ!! やめろ!! 無茶すんなって!!」
だがハルイチは、歯を食いしばりながら言った。
「……いや……今は……必要なんだ……
ミアが……精霊の声を拾ってる……
それを俺が……“形にする”……!」
ミアが微笑むように晴一に寄り添った。
「……大丈夫……ハルイチ。
私が……支えるから……」
二人の魔力が重なった瞬間、
ハルイチの視界に“森の内部図”が展開する。
そして──
【森の心臓:構造解析】
・中心部に“空洞化領域”
・魔力循環が逆流
・魂力が一点に吸い込まれている
・空間外からの干渉波検知
(やっぱり……“外側”の存在だ……)
ハルイチの脳裏に“黒い影”がよぎった。
あれは森の魔獣でも精霊でもない。
この世界の“理”に属さない存在。
まるで──
世界の壁を破って侵入してくる『異物』。
■ “侵食”の正体──影の残した痕跡
森の中心へたどり着いたとき。
そこには、異様な光景が広がっていた。
巨大な大樹の幹に、
黒い“焼け跡”のような痕が刻まれている。
だが、それは焼け跡ではない。
ルリエが震える声で呟いた。
「……これは……空間そのものが“削られて”る……
魔力も、魂も……根こそぎ……」
ガルドは拳を握りしめ、大樹に触れようとする。
「許せねぇよ……こんな森の子どもまで……」
ミアはそっと大樹に触れ──
ふわっと光を広げた。
「……大丈夫……
まだ……間に合う……」
精霊の幼体がミアの胸元で光り、
ミアの魔力と混ざって輝き始める。
ハルイチはその光を見て確信した。
(ミアの“慈愛魔力”……これが唯一の治癒手段なんだ)
だが同時に、
《トライ・アナライズ》が新たな表示を出す。
【外界干渉の源:不明】
・世界外構造からの“引き込み現象”
・精神体・魔力体への高い吸引
・危険度:S級以上
・討伐ではなく封印推奨
(……これを野放しにしたら……
森どころか町まで消える……)
ハルイチの決意が固まった瞬間だった。
大樹の裂け目が“音もなく”動いた。
ゴウ……ッ……
ガルド「おい……動いてる……!?」
ルリエ「違う! 空間が……開いてる……!」
ミアが泣きそうな声で叫ぶ。
「来る……!
“あの子”を吸いに来る……!」
ハルイチは叫んだ。
「みんな!! 精霊を守れ!!
あれは――“こっち側の存在じゃない!!”」
裂け目の奥で、
ゆらりと黒い影がこちらを見ていた。
多くの目を持つ、形の定まらない“侵食者”。
世界外の存在が──
とうとう“姿を現した”のだ。


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