17話:観測者の揺らぎ──世界の“外側”から伸びる手

第17話

森の脈動がようやく落ち着き、精霊の幼体も薄い光を取り戻していた。
ミアは胸の前でそっと光を包み込みながら、弱々しい笑顔を見せる。

「……よかった……この子、まだ生きてる……」

ガルドがほっと息を吐く。

「森が本当に消えるかと思ったぜ……!」

ルリエは静かに頷き、周囲の魔力場を調べながら言う。

「でも、まだ終わっていないわ。
“あの存在”の残滓(ざんし)は、世界に刻まれたままだから」

ハルイチの胸に、重く冷たいものが残っている。

(あの影……そして“観測者”……俺を見ていた存在は、まだここにいる)

脳裏に白い世界が浮かぶ。
そこで響いた無機質な声。

  ……キミ……ミル……ネ……
  ……マタ……アウ……

避けられない。
逃げられない。
そう告げられた気がした。


■ 森の出口で待ち構えていた“違和感”

森を出ると、空は夕焼け色に染まっていた。
しかし美しい景色に似合わず、ハルイチは胸のざわつきを抑えられない。

ガルドが肩を叩く。

「ハルイチ、大丈夫か? 顔色悪ぃぞ?」

「……ちょっと考え事をね」

ルリエが静かに切り込む。

「“外側”の存在が接触してきたのよね?」

ハルイチは短く頷いた。

ミアが心配そうに寄り添い、小さく袖を引く。

「ハルイチ……また呼ばれたり……しないよね……?」

「……わからない。でも、気をつけるよ」

そう答えた瞬間――
ハルイチの視界に“ノイズ”が走った。

0.1秒の幻影。
森の影ではない。
もっと強い何かの気配。

(……ついてきている?)

トライ・アナライズが警告を表示する。


【警告:世界外構造からの観測波を検知】

【対象:あなたの思考】

【侵入度:低】

【意図:興味・追跡】


(……完全に“俺”をターゲットにしている……!)

ハルイチが立ち止まると、ミアがそっと手を握ってくれた。

「……ひとりじゃないからね……?」

その声が、不安を少しだけ溶かしてくれた。


■ ギルドで告げられる“もうひとつの異変”

ギルドに戻ると、受付嬢ルナが蒼白な顔で駆け寄ってきた。

「ハルイチさん、みんな!! 無事だったのね!!」

「どうした? やけに慌ててるじゃねぇか」
ガルドが眉をひそめる。

ルナは硬い表情で机の上に地図を広げた。

「……森の異変、あなたたちの調査で確定したけど……
実はもう一つ、“気になる報告”があって……」

地図の南部を指差す。

「このあたりの洞窟で、“光が吸われる音”がしたというの。
冒険者が松明(たいまつ)を持ち込んだら……
光がまるで“飲み込まれた”ように消えたって」

ルリエの表情が鋭くなる。

「光を……吸う?」
「魔力でもなく……熱でもなく……?」

ミアが震え声で呟く。

「森の子たちの光が……吸われたのと……同じ……?」

ハルイチの背筋が凍った。

(……観測者が“別の場所”でも動いている?
それとも……“創造者”側の仕掛け……?)

ガルドが拳を握り、強く言う。

「その洞窟……行くのか、ハルイチ!」

ハルイチは深呼吸し、仲間を見渡した。

そして、ゆっくりと頷く。

「行く……このままじゃ世界がどこまで壊れるかわからない。
それに……俺は“観測者”と向き合わなきゃいけない」

ミアが手を握りしめ、真っ直ぐ言った。

「ハルイチ……行くなら、私も一緒」

ルリエも静かに笑う。

「当然よ。あなたにひとりで観測者を見せるわけないでしょう」

ガルドは胸を叩く。

「仕方ねぇな! 前衛は任せろ!!」

ハルイチは仲間たちの顔を見て、心の底から思った。

(……俺はひとりじゃない)

しかしその瞬間――
視界の端にまた影が揺れる。

ハルイチが振り返ると、
そこには誰もいない。

ただ、耳の奥に冷たい声だけが残った。

  ……アナタ……ハ……ナゼ……?
  ……ナゼ……ミテル……ノ……?

ハルイチは拳を握りしめた。

(……お前のほうこそ、なぜ俺を“見ている”?
それを確かめないと──前へ進めない)

次の目的地は決まった。

光を“飲み込む”洞窟。
そして、その奥で待つ“観測者”の気配。


次回より第4章「観測者の迷宮」へ突入!
第18話:「」(準備中)

第16話:「観測者の影──“創造者”からの視線」

特設ページに戻る

コメント

タイトルとURLをコピーしました