22話:崩壊する迷宮――選択の代償

第22話

次の層へ足を踏み入れた瞬間、
空間が――軋んだ。

洞窟全体が、低い音を立てて揺れ始める。

「おいおい……
今度は何だ!?」

ガルドが声を荒げる。

ルリエはすぐに状況を見極め、叫んだ。

「迷宮が……自壊を始めてる!」

「自壊……?」

「観測者の“記録”に、
想定外の情報が入りすぎたのよ!」

ハルイチの脳裏に、直感が走る。

(……俺だ)

(俺が……
観測者の論理に“異物”を混ぜた)


■ 1.迷宮の分断

床が、音もなく割れた。

「ミア!!」

ハルイチが手を伸ばすが、
次の瞬間、床が滑るようにずれて
ミアの足元が崩れる。

「きゃっ……!」

ガルドが咄嗟に腕を掴む。

「掴まれ!!」

だが、そのガルドの背後で、
空間が“折れ曲がる”。

ルリエが叫ぶ。

「この迷宮……
“最適化”のために、
役割ごとに分け始めてる!」

(……仲間を……
切り分ける気だ)

観測者の声が、
初めて“焦り”を帯びて響く。

  ……フアンテイ……
  ……コウゾウ……ホウカイ……
  ……シュウセイ……ヒツヨウ……

(……修正……)

ハルイチは、歯を食いしばった。

(……それは……
誰かを切り捨てることだ


■ 2.迫られる選択

空間の歪みが、
仲間たちを引き離そうとする。

ミアの声が、
風にかき消されそうになる。

「ハルイチ……!」

ルリエが必死に叫ぶ。

「晴一!!
このままじゃ……
全員……バラバラになる!!」

《トライ・アナライズ》が、
これまでにない表示を出した。


【提案:観測者側回路への一時接続】
【効果:空間制御・構造安定】
【代償:思考の均質化/感情処理速度低下】
【警告:不可逆的影響の可能性】


(……これが……
観測者の“やり方”……)

(……合理的で……
冷たくて……)

ミアが、必死に声を振り絞る。

「……ハルイチ……
私……ひとりでも……」

その言葉が、
ハルイチの胸を強く打った。

「……やめろ」

ハルイチは、はっきり言った。

「誰も……
ひとりにならせない」


■ 3.ハルイチの選択

ハルイチは、目を閉じた。

仲間の声。
痛み。
恐怖。
揺れる感情。

それらすべてを――
一瞬、遠ざける。

(……観測者)

(お前の“視点”を……
借りる)

《トライ・アナライズ》が、
異質な光を帯びる。

青でも、緑でもない。
無色透明の光。

空間の歪みが、
ぴたりと止まった。

ガルドが息を呑む。

「……止まった……?」

ルリエが震える声で言う。

「……晴一……
“向こう側”に……
足をかけたわね……」

観測者の声が、
静かに、満足そうに響いた。

  ……キミ……
  ……リカイ……
  ……ハヤイ……

ハルイチは、
その声を無視して叫ぶ。

「今だ!!
全員……ここを抜ける!!

空間が、
一本の道へと“再構成”される。

仲間たちは、
迷わず走った。


■ 4.代償

最後に、
ハルイチ自身が足を踏み出そうとした瞬間。

胸の奥が――冷えた。

感情が、
一拍遅れてやってくる。

(……あれ?)

(……怖い……はずなのに……
遅い……)

《トライ・アナライズ》が、
淡々と表示する。


【警告:感情処理遅延を確認】
【影響:共感反応の低下】
【状態:一時的(未確定)】


ミアが、
出口で振り返る。

「ハルイチ!!」

その声を聞いた瞬間、
ハルイチの胸に、
わずかな“温度”が戻った。

(……まだ……
完全には……奪われてない)

全員が、
次の層へと滑り込む。

その背後で、
迷宮が音もなく――崩れ落ちた。

観測者の声が、
遠くで囁く。

  ……ツギ……ハ……
  ……モット……
  ……チカク……

ハルイチは、
拳を握りしめた。

(……代償、か)

(……だが……
まだ、引き返さない)


第23話:「出口のない出口──観測者との再接続」(R8.2.14更新)

第21話:「観測者の欠片──“創造者”の瞳」

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