13話:森の亡霊と“導きの光”

第13話

森の奥へ足を踏み入れるほど、空気は重く、冷たくなっていった。
陽を遮る木々、枯れた落ち葉、そして――生物の気配がまったくない。

ハルイチの胸がざわつく。

(……これは、本当に“森が死んでいる”……?)

ミアはずっと、晴一の袖を握ったままだ。
彼女の瞳は揺れている。
何かから必死に守ろうとしているかのように。


■ “聞こえるはずのない声”

森の深部に近づいたとき、ミアが足を止めた。

「……ハルイチ……また聞こえる……」

ハルイチはしゃがみ、ミアの視線と高さを合わせた。

「どんな声だ? 無理に話さなくてもいい」

ミアは胸の上に手を当て、ぎゅっと押さえる。

「“痛いよ、助けて”って……
でも、声が……前より近い。すぐそこ……」

ガルドが周囲を警戒しながら剣を構える。

「魔獣の声じゃないんだよな、それ」

ミアは首を横に振る。

「ちがう……もっと、弱い……光が消える前の……命の声……」

ルリエが眉をひそめた。

「……光が消える? ミア、何を見てるの?」

ミアは大きく息を吸い込み、ゆっくり吐き出した。

「“木の子ども”たちの光……小さい魂……それが、吸われてるの……」

その言葉に晴一の背筋が凍る。

トライ・アナライズが反応した。


【解析結果:魂の微弱反応 消失を確認】

・森内部の生命反応が急速に減少
・微弱魂力の“吸引”現象を確認
・発信源:森の中心部へ向けて集中


(……魂まで吸い取られてる……!?)

普通のファンタジーなら“魔物の仕業”で片づく現象だが、
晴一の直感は別の答えを示していた。

──これは自然現象ではない。
──何者かの意図がある。
──“世界に穴を開ける存在”がいる。


■ 亡霊のような影

さらに進むと――
突然、何かが晴一の目の前を横切った。

黒い、細長い影。

人の形にも見えるが……輪郭は霞んでいる。

「……っ!? 何だ今のは!?」

ハルイチは叫ぶ。
しかしガルドも、ルリエも、ミアも気づいていない。

ガルド「ん? どうしたハルイチ?」

ハルイチ「今……誰かが通り抜けた……いや、“影”が……」

ルリエが近づき、ハルイチの肩を軽く触る。

「ハルイチ……あなた、視えてるのね。
普通の人には見えない波長……“異界の残滓”よ」

「異界……?」

ハルイチは息を飲む。

ルリエは指を振り、魔力の粒子を周囲に散らす。

「ここ、多層になってる。“別の層”と重なりかけているのよ。
原因が何かはわからないけれど……
あなたは今、その隙間の“影”を視たの。

(……俺だけが視える……?)

それは恐怖よりも、“使命”を突きつけられたような感覚だった。


■ 森の中心で、泣いていたのは……

やがて、森の“中心”と思われる場所に着いた。

そしてミアが泣き出す。

「……あ……そこ……!」

ミアが指さした先――
枯れた大樹の根元に、
光の粒が小さく震えていた。

まるで、小さな子どもが膝を抱えて泣いているように。

ハルイチが近づくと、粒がふわっと揺れた。

(これは……魂?)

トライ・アナライズが自動解析を始める。


【解析:森の精霊“幼体”】

状態:半消失
原因:魔力と魂力の強制吸引
残存魂量:8%
危険度:極めて高い


ハルイチ「……ミア、これは……森の子どもか?」

ミアは涙をこぼしながら頷く。

「そう……森の精霊の赤ちゃん……息が弱い……!」

ガルドは拳を握りしめた。

「誰だよ!! こんなひでぇことしやがるのは!!」

ルリエは震える声で呟いた。

「……精霊の幼体まで……吸われてる……
これは魔術じゃない……災害でもない……
“外側からの干渉”よ。

ハルイチの背筋に、冷たいものが走る。

(外側……?
この世界の“外”……?)

──その瞬間。

ハルイチだけが、
精霊の後ろに“巨大な影”を見る。

幾つもの目を持つ黒い影。
形は曖昧で、空間と同化し、ゆらりと揺れる。

誰にも見えていない。
けれど――
“確かにそこにいる”。

影は、ハルイチに向けて囁いた。

  ……キコエルノカ……
  ……メザメタカ……

ハルイチは足がすくみ、喉が締めつけられる。

(……なんだこれ……俺を……知ってる……?)

ミアが精霊を抱きしめようと手を伸ばす。

「……大丈夫……私が……守る……!」

ガルドも剣を構え、ルリエが詠唱を始める。

ハルイチは、影から目を離さず叫んだ。

「みんな!! 気をつけろ!!
“これはまだ終わってない!!”」

影が、笑ったように見えた。

  ……アア……
  ……マタアオウ……

そして、風もないのに、森全体が揺れた。

“魔力の穴”が、彼らを飲み込もうとしていた。


第14話:「森の心臓と“外界からの侵食”」

第12話:「消えた森と魔力の穴」

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