森の心臓の光がゆっくりと安定し、
侵食者が裂け目の奥へ消えていったあと。
濃い静寂が森を満たしていた。
ミアはまだ涙を浮かべたまま、ハルイチの袖を強く握っている。
「ハルイチ……ほんとうに……大丈夫……?」
ハルイチは少し深呼吸し、微笑む。
「なんとかね。
あれは“敵”というより……迷い子って感じだった」
ガルドが肩をすくめる。
「いやいやいやいや! 迷い子が世界食うかよ!!
あんなもん二度と見たくねぇ!!」
ルリエは表情を崩さず、真剣な声で言う。
「ハルイチ、あなた……“あれ”に触れた時、
ただの精神負荷じゃない何かが起きてたわ」
ハルイチは汗のにじむ額を拭う。
「……ああ。
たぶん――“誰かに見られてた”。」
ミアが怯えたように目を見開く。
「誰か……?」
ハルイチは静かに言った。
「この世界の……外側にいる“誰か”だ」
■ 視界を歪める“観測者の声”
その瞬間――
視界の端がゆらりと揺れた。
まるで空間にテレビのノイズを刺すような歪み。
ガルドが慌てて剣を構える。
「おい!? またかよ!?」
ルリエの声に焦りが混じる。
「違う……魔力じゃない……精神干渉よ!」
ミアはハルイチにしがみつき、震えながら叫ぶ。
「ハルイチ!! 離れちゃダメ!!」
ハルイチは皆を安心させようと、手を振る。
「大丈夫。これは……攻撃じゃない」
しかし次の瞬間――
ハルイチの視界に、“文字列”が流れ込む。
いや、文字ではない。
理解不能な構造情報。
【未知の視線を検知】
【あなたは観測されています】
【接続元:不明(世界外)】
(……また……だ。)
脳が勝手に解析しようとし、情報が雪崩のように押し寄せる。
ミアの手が震えながらハルイチの心に触れる。
「ハルイチ……つらい……?
声が……来てるの……?」
「……ああ。
でも、これは敵意じゃない。
“興味”だ」
ルリエが眉を寄せる。
「あなたを……観察しているということね」
ガルドが怒りを滲ませる。
「ふざけんな! ハルイチはモルモットじゃねぇ!!」
■ 精神世界の裂け目
突然、ハルイチの視界が真っ白に弾けた。
次の瞬間――
ハルイチは“白い空間”に立っていた。
音がない。
感触がない。
存在の輪郭さえ曖昧な──
異質な世界。
(ここは……?)
すると、白い空間に“影”が滲み出る。
先ほどの侵食者とは違う。
もっと整った形。
もっと“意図”を感じる存在。
声が頭の奥に直接響く。
……キミ……
……キミハ……ナニ……?
ハルイチは息を整え、言葉を返した。
(お前は……誰だ?)
影が揺れ、まるで笑ったように波紋を広げる。
……ボク……ハ……
……ソトノ……ヒト……
……ミテタ……ズッ……ト……
ハルイチの背筋が凍る。
(俺を……前から見ていた……?
なぜ……?)
……タスケテ……アゲル……
……キミ……チカラ……アリ……
……キョウミ……アル……
声は温度がない。
ただ、無機質な観測の視線だけを伴っている。
ハルイチの意識が揺れそうになった時――
「ハルイチ!!」
ミアの声が響いた。
次いでルリエの魔力の波。
ガルドの怒鳴り声。
現実世界の仲間たちの声が、引き戻す。
影がかすれたように言った。
……マタ……アウ……
……キミ……ミル……ネ……
白い空間が崩れ、ハルイチは現実へと戻ってきた。
■ 仲間たちの“繋ぎ止める力”
ハルイチが目を開くと、ミアが泣き顔で抱きついていた。
「よかった……戻ってきた……!」
ガルドは歯を食いしばりながら言う。
「マジでやめてくれ! 心臓飛び出るわ!!」
ルリエは深いため息をついた。
「ハルイチ……今あなたが見たのは、
侵食者より“上位の存在”よ」
「上位……?」
ルリエは静かに言う。
「世界の壁を破れる存在……
その“観測者”から、あなたは“選ばれている”。」
ミアがハルイチの腕を掴む。
「そんなの……やだよ……
ハルイチは……こっちの世界の人だよ……!」
ハルイチはミアの頭を撫で、言う。
「大丈夫だよ。
どんな存在に見られていても……
俺は君たちと一緒にいる。」
その言葉に、ミアは胸元で静かに光った。
慈愛魔力が、微かに震える光でハルイチを包む。
ルリエが真剣な声で告げる。
「ハルイチ……
あなたは“世界外の存在”にとって、特別な意味を持つらしい。
次に接触があったら――その核心がわかるわ。」
ハルイチは静かに息を吸う。
(……逃げられない。
俺は、何かの“鍵”にされている……)
だが胸の奥は、不思議と澄んでいた。
なぜなら――
背後に、仲間の存在があるからだ。


コメント