森の脈動がようやく落ち着き、精霊の幼体も薄い光を取り戻していた。
ミアは胸の前でそっと光を包み込みながら、弱々しい笑顔を見せる。
「……よかった……この子、まだ生きてる……」
ガルドがほっと息を吐く。
「森が本当に消えるかと思ったぜ……!」
ルリエは静かに頷き、周囲の魔力場を調べながら言う。
「でも、まだ終わっていないわ。
“あの存在”の残滓(ざんし)は、世界に刻まれたままだから」
ハルイチの胸に、重く冷たいものが残っている。
(あの影……そして“観測者”……俺を見ていた存在は、まだここにいる)
脳裏に白い世界が浮かぶ。
そこで響いた無機質な声。
……キミ……ミル……ネ……
……マタ……アウ……
避けられない。
逃げられない。
そう告げられた気がした。
■ 森の出口で待ち構えていた“違和感”
森を出ると、空は夕焼け色に染まっていた。
しかし美しい景色に似合わず、ハルイチは胸のざわつきを抑えられない。
ガルドが肩を叩く。
「ハルイチ、大丈夫か? 顔色悪ぃぞ?」
「……ちょっと考え事をね」
ルリエが静かに切り込む。
「“外側”の存在が接触してきたのよね?」
ハルイチは短く頷いた。
ミアが心配そうに寄り添い、小さく袖を引く。
「ハルイチ……また呼ばれたり……しないよね……?」
「……わからない。でも、気をつけるよ」
そう答えた瞬間――
ハルイチの視界に“ノイズ”が走った。
0.1秒の幻影。
森の影ではない。
もっと強い何かの気配。
(……ついてきている?)
トライ・アナライズが警告を表示する。
【警告:世界外構造からの観測波を検知】
【対象:あなたの思考】
【侵入度:低】
【意図:興味・追跡】
(……完全に“俺”をターゲットにしている……!)
ハルイチが立ち止まると、ミアがそっと手を握ってくれた。
「……ひとりじゃないからね……?」
その声が、不安を少しだけ溶かしてくれた。
■ ギルドで告げられる“もうひとつの異変”
ギルドに戻ると、受付嬢ルナが蒼白な顔で駆け寄ってきた。
「ハルイチさん、みんな!! 無事だったのね!!」
「どうした? やけに慌ててるじゃねぇか」
ガルドが眉をひそめる。
ルナは硬い表情で机の上に地図を広げた。
「……森の異変、あなたたちの調査で確定したけど……
実はもう一つ、“気になる報告”があって……」
地図の南部を指差す。
「このあたりの洞窟で、“光が吸われる音”がしたというの。
冒険者が松明(たいまつ)を持ち込んだら……
光がまるで“飲み込まれた”ように消えたって」
ルリエの表情が鋭くなる。
「光を……吸う?」
「魔力でもなく……熱でもなく……?」
ミアが震え声で呟く。
「森の子たちの光が……吸われたのと……同じ……?」
ハルイチの背筋が凍った。
(……観測者が“別の場所”でも動いている?
それとも……“創造者”側の仕掛け……?)
ガルドが拳を握り、強く言う。
「その洞窟……行くのか、ハルイチ!」
ハルイチは深呼吸し、仲間を見渡した。
そして、ゆっくりと頷く。
「行く……このままじゃ世界がどこまで壊れるかわからない。
それに……俺は“観測者”と向き合わなきゃいけない」
ミアが手を握りしめ、真っ直ぐ言った。
「ハルイチ……行くなら、私も一緒」
ルリエも静かに笑う。
「当然よ。あなたにひとりで観測者を見せるわけないでしょう」
ガルドは胸を叩く。
「仕方ねぇな! 前衛は任せろ!!」
ハルイチは仲間たちの顔を見て、心の底から思った。
(……俺はひとりじゃない)
しかしその瞬間――
視界の端にまた影が揺れる。
ハルイチが振り返ると、
そこには誰もいない。
ただ、耳の奥に冷たい声だけが残った。
……アナタ……ハ……ナゼ……?
……ナゼ……ミテル……ノ……?
ハルイチは拳を握りしめた。
(……お前のほうこそ、なぜ俺を“見ている”?
それを確かめないと──前へ進めない)
次の目的地は決まった。
光を“飲み込む”洞窟。
そして、その奥で待つ“観測者”の気配。
次回より第4章「観測者の迷宮」へ突入!
第18話:「」(準備中)


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