18話:光を喰らう洞窟へ――観測が拒まれる場所

第18話

ギルドの朝は、いつもより騒がしかった。

冒険者たちの声、装備の金属音、
依頼掲示板の前で交わされるざわめき。

だが、その中心に立つハルイチの胸の内は、
不思議なほど静まっていた。

世界の“外側”を知ってしまった。
観測者の存在を、はっきりと意識してしまった。

もう、
「巻き込まれた一般人」ではいられない。


■ 1.ギルドマスターの判断

ギルド奥の応接室。
重厚な木製の机の向こうに、ギルドマスター・バルドが座っていた。

白髪混じりの髭を撫でながら、低い声で言う。

「……光が、消える洞窟、か」

机の上には地図。
赤い印が、南部の山岳地帯に刻まれている。

「松明の火が消える。
魔法灯が暗転する。
だが“闇”ではない……光だけが抜け落ちる」

ルリエが静かに補足する。

「魔力吸収とも違います。
残留魔力が“持ち去られている”」

バルドは一度、深く息を吐いた。

「……普通の依頼じゃないな」

視線がハルイチに向く。

「ハルイチ。
森の件も含めて、これはお前たちに任せたい」

ガルドが目を見開く。

「マジか!? 俺たち、まだ駆け出しだぞ?」

バルドは苦笑した。

「だからだ。
“分かってしまう奴”がいるパーティじゃないと、
これは無理だ」

ハルイチは、短く頷いた。

「……行きます」

即答だった。


■ 2.ミアの違和感

ギルドを出ると、
ミアが小さく胸を押さえた。

「……ハルイチ……」

「どうした?」

「……洞窟の方……
なんだか……“空っぽ”なの……」

ルリエが反応する。

「空っぽ?」

ミアは言葉を探すように、ゆっくり続けた。

「森のときは……
痛い、とか、悲しい、とか……あった」

「でも……あっちは……
なにも……いないみたいで……」

ハルイチの胸に、冷たい感覚が走る。

(……生命が吸われた“後”か)

ガルドが冗談めかして笑う。

「逆に言えば、静かってことだろ?
なら、やりやすいじゃねぇか!」

だがルリエは、首を横に振った。

「静かすぎる場所は……
だいたい、危険よ」


■ 3.洞窟の入口

半日後。
山肌に穿たれた、黒い洞口が姿を現した。

風は吹いている。
音もある。
だが――

光だけが、洞窟の中へ届いていない。

ガルドが松明を掲げ、一歩踏み出す。

次の瞬間、
火が、音もなく“消えた”。

「……は?」

ルリエの魔法灯も、同じように暗転する。

闇ではない。
確かに視界はある。

だが――
光源が存在できない。

ハルイチの視界に、トライ・アナライズが浮かぶ。


【解析対象:洞窟内空間】
【異常:光情報の欠損】
【仮説:観測・記録・保持が不可能な構造】


(……なるほど)

ハルイチは、はっきり理解した。

ここは、
「観測されること」を拒む場所

そして同時に、
“観測者の領域”に最も近い場所

ミアが、ハルイチの服をそっと掴む。

「……ここ……
あの“声”が……近い……」

ハルイチは、一歩前へ出た。

「行こう」

振り返り、仲間を見る。

「ここから先は、
たぶん……今までと“ルール”が違う」

ガルドが剣を構える。

「上等だ」

ルリエが静かに頷く。

「迷宮、というわけね」

ミアは、小さく深呼吸した。

「……一緒なら……大丈夫……」

洞窟の奥から、
誰かが“こちらを見ている”気配がした。

だが、声はない。

まだ――
観測は、始まったばかりだ。


第19話:「反響する声──精神干渉の迷路」(R8.1.17更新)

第17話:「観測者の揺らぎ──世界の“外側”から伸びる手」

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